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執筆者の写真信一 辻

『ヒューマンカインド 希望の歴史』日本語版

前にここで紹介しておいたブレグマンの本がついに日本にも上陸。オススメしておいた山崎亮さんが手に入れて、早速上巻を読んだ、とさっき教えてくれた。

そして、ブログに書いた文章を添えてくれたので、紹介させてもらおう。



<以下、転載>


『希望の歴史(上巻)』 辻信一さんから「ヒューマンカインドという本が面白いよ」と教えてもらった。辻さんは英語版で読んだらしい。翻訳が出たら読みたいなと思っていたら、出た。上下巻の2冊セット。小説だったら読み終えることはできないページ数だが、この手の本なら大丈夫だろう。さっそく上巻を読んだ。 気分が良い本だ。何しろ「人間の本性は悪だと思われてきたけど、実は善なんじゃないの?」という内容である。本当はそうあって欲しいなぁと思っていた。人間は、自然状態にあるとお互いにいがみ合い、攻撃し合い、殺し合うことになる。だから権力が必要であり、法律が必要だ。そうやって文明化すると、人々は一応、おとなしく生きていくことができるようになる。ホッブスが主張したこの手の性悪説は、王様や権力者が使いたがる言説だ。「だから私のようなものが必要なのである」と庶民を説得しやすいからだ。 王様だけじゃない。メディアも「人間って、いい人そうに振る舞っているけど実は奥底に悪い心を抱えているんだよね」と発信したい。なぜなら、そのほうが視聴率が稼げるからだ。「こんな残忍な事件が起きました」「戦争ではこんなに痛ましいことが行われていました」「詐欺の手口はこんなに卑劣です」。こういう情報にこそ、多くの人々が興味を持つことをメディアは知っている。逆に、人々が興味を持たない情報も熟知している。「今日もこのまちは平和でした」「この人はとても親切でした」「お互いに助け合って物事を成し遂げました」。この手のコンテンツは視聴率を高めるのが難しい。たまに観るなら良いのだが、刺激を求める人々にとってはすぐに物足りない内容だと判断されてしまう。その結果、新聞でもテレビでもネットでも、刺激的な情報、つまり「人間はどれだけ悪いことをするか」という情報が大量に発信され続ける。 王様やメディアだけじゃない。実は研究者も出世のためにウケを狙う。つまり、「人間の本性は悪である」ことを立証するような論文を書く。なぜなら、そのほうが多くの人達に読んでもらえるし、メディアに取り上げてもらえる可能性が高まるからだ。テレビ番組の企画者は、人間の悪性を実証した実験を再現したがる。視聴率が高くなって広告収入がたくさん得られそうだからだ。こうした番組には、元の実験をした研究者も登場してインタビューに答える。すると、この研究者の知名度が上がる。准教授になり、教授に昇進する。 つまりこういうことだ。研究者たちは人間の「善性を証明する論文」と「悪性を証明する論文」をこれまでに山ほど書いてきた。メディアは視聴率や再生回数を意識して、人間の「悪性を証明する論文」を使った番組を多く企画してきた。その結果、「人間の本性は悪である」ということを伝える番組が多くなり、人間の「悪性を証明する論文」を書いた研究者が出世する。 結果的に、我々に入ってくる情報の多くが「人間の本性は悪だよー」というメッセージを帯びることになる。問題はここからだ。「人間の本性は悪だよー」というメッセージを受け続けると、人間は他人を疑いやすくなるらしい。ずるいことを考えやすくなるらしい。凶暴になりやすいらしい。ではどうしたらいいのだろう。その先はきっと、下巻に書いてあるのだろう。引き続き読み進めようと思うが、とりあえずネットニュースとSNSを眺めるのは止めようと思う。テレビと新聞はもう長い間、観たり読んだりしていないので心配はないが、SNSとネットニュースはついついクリックしてしまう。YouTubeにも注意が必要なチャンネルが多い。特に「悪そうなニュース」や「悪そうな企画」がタイムラインに上がるとついつい。それらを読んだり観たりする時間があるなら、むしろ本書の下巻を読み進めたい。

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