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執筆者の写真ワダアヤ

「マシュピの森のチョコレート」ができるまで 和田彩子


マシュピのチョコレートは、Earth-to-Bar。どうEarthなのかは、少しお伝えしましたし、またこれからもいろんなエピソードをお伝えしたいと思っていますが、実ったカカオがどうBarになるのか、みなさんにお伝えしたいと思います。


<収穫>

まず収穫。ここでは数種類のカカオ・ナシオナルを植えることで、交配したり、しなかったりして、様々な種類ができ、仮に何かの病気が出たとしても全滅ということにはなりません。また成長速度もそれぞれなので、収穫期もずれ、年に二回の収穫ピークを迎えます。収穫は、スタッフ総出で行います。収穫した後は、その場で実を取り、その殻は一定の距離をあけて畑に残されます。カカオポットに残る果肉につられてハエの一種が卵を産み、そのハエが孵化し、カカオの花の受粉を促す役割を果たしてくれるのです。このハエは孵化した場所から30m以上遠くへは飛べないので、このハエがいないカカオ農園は受粉率を上げることができないのです。


<発酵・乾燥>

 収穫したカカオの実を選別した後、バルサという木で作られた箱に入れ、種を4日間発酵させます。発酵を均一にするため毎日混ぜなければなりません。その後、太陽光と手作りのロケットストーブを併用して、5日間、水分が4%になるまで乾燥させます。熱帯雨林なので、「乾燥」させるというのは手間がかかります。その間も、カカオ豆は発酵し続けます。


<焙炒・分離>

発酵・乾燥が終わったカカオ豆は低温でゆっくり焙煎されます。それを冷却したら、皮を取り除き、カカオニブスを取り出します。これをすりつぶすと、カカオマスです。さらにこれからカカオの油分、つまりカカオバターを分離すると残るのがカカオケーキです。カカオケーキを粉砕すると、カカオパウダーになります。


<磨砕(まさい)・精錬>

カカオマスとカカオバターとキビ糖などの原料を混ぜた後、繊維を壊す作業に入ります。これを磨砕と言います。そしてその後さらに滑らかにするために精錬(ステンレス製のパチンコ玉のようなもの玉5万個とともに36時間混ぜ続ける)工程を行います。


<調温>

精錬が終わったら、温度を調整(テンパリング(予備結晶化))します。(チョコレートに含まれるカカオバターを分解し、安定した細かい粒子に結晶させて融点を同じにするための温度調整のこと)


<型入れ・梱包>

 チョコレートが固まる前に、板チョコレートのケースに流し込み、一晩休ませ、翌日に梱包します。



マシュピチョコレートの最大の特徴と言っていいのは、カカオ農園と同じところでチョコレートを製造しているところです。エクアドルのカカオはほとんどチョコレートの原料として、ヨーロッパや北米、日本などの海外に輸出されます。どれだけ質の良いカカオを作っても、単に原材料生産者という地位に甘んじてしまう。でも彼らには、そうじゃない、ここにしかない良質のエクアドル産のカカオをエクアドルで加工して高品質のチョコレートを作り、その質に合った収入を得るという気概があるのです。


この農園の平均気温は、25℃程度。30℃を超える日も少なくありません。チョコレートの融解温度は、27℃程度と言われています。カカオを育てるには最適でも、チョコレートを作るには最適とは言えません。湿度も高いので、カビとの戦いもあります。また生態系の多様さがあると言うことはすなわち虫たちもたくさんいるわけで、チョコレートに卵を産む蛾や蟻が隙間から容赦なく入り込んできたりするのです。エクアドル産の多くのチョコレートはこの問題ゆえに、カカオを栽培するところ(熱帯雨林)と、チョコレートを製造するところ(首都キト(標高2800m)やサリナス(3600m)など標高が高く涼しいところ)を分けています。マシュピは、有機であることを死守しようとしているので、もちろん殺虫剤や防腐剤は使えません。これまで製造工房を何度も修繕したり、床の材質を変えたり、エアコンを入れたりしました。それでも彼らは、「マシュピ」という場所で、「マシュピ」の人たちによるチョコレートと作りたいと言います。


この地域は、酪農、パルミート(ヤシの木の若芽)やバナナの大規模単一栽培が盛んで(故に多くの大規模森林伐採も)、地域の人たちの多くは小作人として大地主に使役されてきた歴史があります。また女性たちの地位は男性のそれに比べると今もってとても低いのです。農園で正規の社員として働いているのは、6人。カカオ栽培責任者アレハンドロさん、チョコレート製造責任者アグスティーナさん、そしてアグスティーナさんのお姉さんである販売担当のマヌエラさん。それからいつも冗談ばっかり言っている陽気な栽培担当のマルコさん、チョコレート製造のしっかり者の妹ナルシサさんと甘えん坊の姉カリーナさん姉妹。彼らは、給料は決して高いとは言えないけれど、きちんと社会保険、夏休み、冬休み、年に2回のボーナス、その他諸々の手当てを受けています。エクアドルの地方の小さな村で、高校以上の教育を受けていない人たちが福利厚生のきちんとある職につけるというのはかなり稀と言っていいと思います。


自然を破壊せず、エクアドル原産の素晴らしいカカオを育てて、世界に認められているチョコレートを作っているという自負も彼らから感じられます。そして何より、彼らが楽しそうに働いているのがとても印象的です。ナルシサさんとカリーナさんは共にシングルマザーですが、彼女たちの子どもたちもしょっちゅうマシュピ農園にきて、遊んだり、収穫を手伝ったりしています。そうした空気を感じる度に、私は、マシュピチョコレートの素晴らしさを再認識し、胸が熱くなるのです。






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