今日は、マシュピチョコレートのカカオ以外のお話をします。
マシュピチョコレートの基本は、カカオとキビ糖です。カカオはマシュピの農園で育てられたものですが、キビ糖は同じ教区にある有機サトウキビ生産者組合から買っています。キビ糖というのは、サトウキビの茎を絞って、煮詰めて、それを粉砕しただけのもので(というとすごく簡単に作れるような感じがしますが、かなりの重労働)、甘いだけでなく、サトウキビ独特の風味とコクがあります。その独特の風味が、ひょっとしたらチョコレートを邪魔するのではないかと、以前はコロンビア産の有機の砂糖を使っていました。しかし、それはやはり違う、地元で作っているサトウキビの製品を使わなくてどうするのだ、と地元産有機キビ糖を使うようになりました。
マシュピを含むピチンチャ県北西部は、国連認定のバイオスフィア保護区に選ばれるほど、生態系、そして自然資源の宝庫です。そしてそれはそのまま地下資源の豊富さも意味します。今現在もサラサール・リソーセスという会社が強引に鉱物探鉱を始めました。しかし鉱山開発というのは大規模な森林破壊と水質汚染をもたらします。しかしたとえどれだけ鉱山開発が自然を、そして人々の生活を破壊してしまうかを理解していても、NOと拳を振り上げるだけでは解決に結びつきません。鉱山開発会社の仕事につけたり、あるいは土地を鉱山開発会社に高く売ることができたりするので、きつい仕事を安い賃金でやってきた地域住民の人たちからすると、あるいは全く現金収入がない人たちからするとそれが魅力的に映るのを責めることはできません。
しかし、自分たちが誇りを持ってできて、きちんとした現金収入が見込める仕事があれば話は違う。この地域で、自然を破壊することなくサトウキビを生産・加工して、キビ糖を正当な価格で売ることができるという道筋ができれば、鉱山開発に賛成という人が減るはずという信念のもと、チョコレート製造責任者のアグスティーナさんは、キビ糖を使うことでわずかに変わってしまう味の調整を重ねて、地域の生産者が作る有機キビ糖を使い、なおかつ自分たちも納得できる味のチョコレートに仕上げることができました。本人はさらっと言っていましたが、この話を聞いたとき、胸が震え、涙さえ出そうになりました。こうしてマシュピ農園がチョコレート作って売ることで、鉱山開発という大きな脅威を前にした人たちに希望と、そして立ち向かう勇気を与えることができるのだと。
※写真は別の地域、インタグ地方で私がお邪魔したキビ糖作り工房の写真です。こちらも同様に、インタグにおける鉱山開発会社と戦っています。
「しかし、自分たちが誇りを持ってできて、きちんとした現金収入が見込める仕事があれば話は違う」ここ、本当にそうですね。その中でできたマシュピチョコレート、ありがたいです。
脱炭素という言葉に踊らされて、銅をはじめとする資源の取り合いが加速する中、より一層、見極める姿勢が問われているように感じます。