私の住む鹿児島県姶良市には、いくつかの町があり、地理的にも山と海に囲まれて、いろいろな景色を楽しめるのが魅力です。
漁港や、日本でも有数の干潟があり、かつては塩田でも栄えた海辺の町。武家屋敷が残り、大きな楠で有名な神社がある町など。そして、田畑が広がり、「山田の案山子」と呼ばれるほど、ユニークな案山子が町中の至るところにずらりと並ぶ風景で有名な「山田村」も、そのひとつです。
小学校の向かいの大きな倉庫と広場を、「山田村文化センター」と名づけ、コツコツと鹿児島の文化を再興しようとしている粋な集団、「南部式」。その南部式を率いるテラバル仁太さんを中心に始められた祭りが、去年の夏も開催されました。題して「盆おどりンピック」。
この盆おどりンピックは、いわゆるよくあるお祭りでもあり、おそらく他に類のない不思議なイベントでもあります。
まず、出店者はおおむね、農家、漁師、自営業の小商い、半農半Xといった、小さいながらもしっかりと、スローな日々を営む人たち。そんなお店に囲まれて、会場中央にそびえ立つ手作りの櫓の上とその周りは、特設ステージです。子どもたちのダンス、和太鼓集団「蒲生太鼓(でこ)坊主」による和太鼓や玉すだれの演技、いろんな祭りで餅つきパフォーマンスをしている「組屋」の豪快な餅つき、なぜかヒップホップやレゲエのライブ、D Jタイム・・・と、地域の方々や、鹿児島のアツいの人たちが次々に芸能を披露していきます。
ステージのトリを飾るのは「南部式」。以前、橋の下世界音楽祭で伝説のパフォーマンスをしたとも言われる、南部式のライブには、いつも、ジャイアントストンプスというパフォーミング集団が付き、巨大な赤鬼・青鬼・河童・骸骨・龍などが出現します。
どの曲も素敵ですが、特に面白いのは「THE梵ダンス」という曲で、その歌詞に、“ヒューマン 獣にもののけ精霊 踊れ盆ダンス この世の命とあの世の命は永遠 回れ盆ダンス”というフレーズがあります。
そんな歌を聴きながら、やぐらの周りを、鬼や龍や河童たちと一緒に、老若男女がぐるぐると回りながら盆踊りをしていると、時空を超えて何かがグルグルウネウネと大きなうねりをあげているような、そんな感覚になります。
ハロウィンか、メキシコの死者の日か、いや、これぞまさに日本の盆踊りなのか! という感じです。鹿児島は、関東などに比べると、夏祭りといえば、盆踊りよりも六月灯の方が盛んなので、やぐらを囲んで盆踊りを踊る、という体験は久しぶりでした。
同時に、巨大な鬼の登場によって、小さな子どもたちはもれなくみんな号泣するのですが、その様子が、東北地方のナマハゲや、ボゼ(鹿児島の南の島々に今も残っているお祭り)にも似ていて、日本の各地域に伝わる伝統的な厄除けの儀式を彷彿とさせます。
祭りという伝統を、自分で始めるエネルギーと覚悟に、圧倒されていた私ですが、祭りの翌日に近所の温泉でばったり再会した仁太さんに、こんなことを言われました。「どんなに古くから伝わる祭りも、最初は誰かが同じようなノリで始めたのかもしれないでしょ、祭りが消えつつある今だからこそ、これからは俺たちで祭りを作っていかなきゃ。来てくれてありがとう。」
祭りに参加して一緒に踊ってしまった私は、もう、祭りを創造した一員になったのだ、と思うと、誇らしいような、次の世代に渡すべき大きな何かを背負ったような、複雑な気持ちで、その言葉にただただ頷いたのでした。
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