前回(記事はこちら)に引き続き、1月末にオンライン開催された、エクアドルでマシュピ農園からの報告をお届けします。農園管理とチョコレート製造にかかわるアグスティーナさんの、カカオ収穫後も続く生態系の循環についての説明にハッとさせられました。後半では、ナマケモノ倶楽部代表の辻さんから、ローカルとリジェネラティブな活動の意義を、平和という視点を添えて話を深めてくれました。(日本語通訳:和田彩子さん)
●森の多様性がチョコレートのフレーバーに!
パッションフルーツ、黒コショウ、カルダモン、ターメリック(ウコン)…、マシュピ農園で作られるチョコレートの材料は、カカオと同じ森の農園で育てられています。黒コショウやパッションフルーツは木に絡まって育ちます。ターメリックはカカオの木の下を好んで育ちます。つまり、木の根元や地表をマルチのようにカバーしてくれる役割を果たしてくれているんです。アグロエコロジーで森がよみがえるにつれて、ブルネイチェリーやマカンボなど、チョコレートに新しいフレーバーも増やすことができています。
チョコレート加工で私たちが使う部分は、カカオポッドの中にある白い果肉と種子だけです。カカオの種子はチョコレートに、白い果肉はシロップに加工されます。種子のついた果肉を取り出した後、カカオポッドは空洞部分を上にして木の根元に置きます。これにはちゃんと意味があります。雨が降るとその空洞部分に水が溜まり、小さいハエがが卵を産みます。孵化したハエは、カカオの受粉に大きな役割を果たしてくれるというわけです。
●教育としてのアグロエコロジー
リジェネラティブ農業やアグロエコロジーは、とても手間がかかり、多くの人の手が必要です。
私たちは農園から出る廃棄物を使って肥料を手作りしています。コンポストトイレとかヤギのフンとかカカオ豆の外皮を肥料に活用します。
右の写真は、カカオ農園で土に落ちた葉っぱの上で自然に育っている白い菌です。それを集めて培養し、液肥を作ります。森からできた肥料ですね。近隣の農家さんや学生さんたちがアグロエコロジーを学びたいと見学に来るのですが、こういう知恵もシェアしています。
肥料以外にも私たちは、誰でも身近にある材料で実践できて環境に負荷をかけないローテクノロジーの普及に力を入れています。たとえば農園内にある建築物はすべて農園で取れた有機物を使っています。左の写真はカカオ豆を乾燥させる台ですが、ここで育った竹を使っています。右の写真はカカオの焙煎に使うロケットストーブです。ここでも竹を薪として活用しています。
●森への感謝を胸に
最後に、マシュピ農園の夕景をシェアさせてください。いろんな高さの木々がシルエットで見えます。ここに写っている森は私たちの仕事場でもあります。繰り返しになりますが、すべての作業は手間がかかり、本当に大変です。でも、夕方になり静寂が訪れると、感謝の気持ちが芽生えてきます。自分たちがやっていることの意味を問いかけ、自分たちがやってきたことはちゃんと機能しているんだと再認識する時間でもあります。そういう環境に心から感謝しています。
●ローカリゼーションが自然と平和を取り戻す
辻:素晴らしいプレゼンテーションでした。まずお礼を言わせてください。
ひとつ、個人的な質問をしたいのですが。去年、今年と大きな争いが世界で起こっています。南米でも非常に危険な状態が各地で続いている。アレホさんたちは平和についてどう考えていますか?
アレホ:私たちは食べ物によっていろんな人と関わり、また食べ物によって地球にいろんなインパクトを与えています。ですから、カカオ農家として、私たちはいいエネルギー、つまり平和のエネルギーがつまったチョコレートを皆さんに届けたい。リジェネラティブに育てられた作物を食べることで、人間もまたリジェネラティブに再生していくことができると信じています。
アグスティーナ:マシュピ農園から車で3時間ぐらい行くと、サント・ドミンゴという大都市があります。そこは大規模な単一栽培、慣行農業が行われていて、鉱山開発が行われようとしているところです。少数の人が広大な土地を所有し、そういった不平等が暴力を引き起こしています。
一方、私たちのプロジェクトは、若い世代やいろんな人たちを惹きつけています。そういうアグロエコロジー、リジェネラティブ農によって、平和や自然を取り戻していくことができると思います。
辻:ぼくたちナマケモノ倶楽部は、ここ数年、ローカリゼーションとリジェネラティブ(大地再生)を両輪にしたムーブメントを作ろうと取り組んでいます。ローカルってことがどうして最も有効な平和活動なのかを世界に問うていきたいと。お二人の活動がまさにぼくらにとってのロールモデルで、大きなインスピレーションを与えてくれると思いました。
辻:1ヘクタールに500本のカカオがあって、1500本の他の木があると。どういう基準で1500本の木を選ぶのですか?
アレホ:まず、パーマカルチャーの理論でコンパニオンプランツと言いますが、カカオと相性のいい植物で、かつ農園で活用できる植物を植えるようにしています。背の高さや畑で相互作用できる植物の相性で考えます。それからフードフォーレスト。食の主権(food sovereignty)の観点から、自分たちだけでなく近隣の農民も十分な食べ物が得られるよう、バナナとかオレンジ、パパイヤなど、食べられる作物を植えるようにしています。
それから土の栄養になること。根が広がっていくことによって土が柔らかくなり、土の養分になる植物を選びます。それからアナログ・フォレストリー。森が育っていくときに最初に生える植物はなんだろうということから考え、森の植生遷移を模倣するやり方です。このような基準でカカオ以外の植物や樹種を選んでいます。
アグスティーナ:大事なのは、カカオだけ存在してるのではないということです。カカオと相性のいいものを組み合わせて、カカオとや他の植物が必要なミネラルを集めます。例えば、マメ科の植物を植えることによって水素を集める、バナナを植えることによってカリウムを集めるというように、様々な良い相互作用が生まれるよう意識しています。
辻:熱帯であればあるほど高温多湿で、地上に落ちるものたちがあっという間に微生物によって分解されてしまってなかなか根まで届かない。マシュピ農園ではどうですか?
アグスティーナ:私たちの土地もアマゾンと同じで、すごく早く分解してしまいます。だから、私たちのところは、有機物は土の上の方にあるんですね。たくさん枝の剪定とかしたり、あるいは倒れてきた幹を使ったりして、葉っぱだけじゃなくて分厚いものを土の上に置くことによって、たくさんの菌類とか虫たちを集めて栄養素を集めるようにしています。
アレホ:いろんな高さの植物を植えると、根っこそのものも違う深さで、かつ捕まえる栄養素も違ってきます。上から降ってくる枝葉や木の実もいろんな栄養素を取り込みます。そして、地中では異なる根が多様な栄養素をどんどんポンプのように組み上げ、循環させていく。アグロフォレストリーという完璧な生産システムです。競争じゃなく共存。ゆっくり一緒に育つなかで、お互いが補完し合う関係を作っていくのです。
辻:まさに人間の社会にも同じことが言えそうですね。僕は1990年代はじめから10回以上、エクアドルに通ってきました。ぼくが見たエスメラルダス県は、農業に関しては本当に悲惨で、典型的な単一栽培、現地の人たちの口に入らない農業です。鉱山もそう。鉱山開発ってそこの人たちに何の関係ないものを取るために森全体を壊すわけです。森だけでなく、その下流域に住む人たちの川や生態系まで全部壊しちゃう。これが暴力です。その意味では、ぼくたちは遠く離れた日本からそういう原因を作ってしまっている。
同時に、近代的な農業という意味で、ぼくらも暴力のただ中にいます。その暴力的な農業によって、ぼくたちは本当に今、行き詰まっていますよね。その点でも、ローカル、アグロフォレストリー、リジェネラティブといった営みが、決して単なる環境運動じゃなくて平和運動でもあることがわかってきます。
アレホ:私たちはエクアドルで、みなさんは日本で、それぞれの場所でグローバルにインパクトを与える暮らしを実現していくことです。私たちも不安になることはあります。でも、この小さな農園から、それぞれのコミュニティから平和を広げていくことはすごく大事だし、できると思います。
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