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執筆者の写真辻信一

さようなら、プラチャー、ありがとう (2)

先日亡くなったばかりのわが友、プラチャーをぼくに紹介してくれたのは、20数年来の友人、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジだった。そのヘレナが、自ら率いるLocal Futures のホームページに書いたプラチャーのための追悼文を、拙訳してみたので読んでいただきたい。


来る6月27日夜には、オンラインイベントではあるが、この日本でもぼくたちなりの仕方でプラチャーを偲んでみようと思っている。DVD映像作品『音もなく慈愛は世界にみちて』から、プラチャーが登場する場面を抜粋して見ながら、制作にも深く関わってくれた上野宗則さんと、プラチャーとの思い出を語り合いたいと。プラチャーと生前ご縁があった方はもちろんだが、なかった方でも遅くはない。混迷する現代世界にひときわ輝きを放ったこのスピリチュアルな賢者と出会ってほしい。


>>6/27(火)夜オンライントーク詳細はこちら




 

プラチャーの死を悼む ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ

>>原文はこちら


プラチャー・フタヌワットとの出会いは、彼が1980年代半ばにラダックを訪ねてきたときでした。私たちはたちまち意気投合、彼は私をタイに招き、彼の師であるスラック・シヴァラクサを紹介してくれました。スピリチュアルな求道者であるプラチャーとスラックは、同時に、社会変革のために活動し、ともにINEB(International Network of Engaged Buddhists―社会変革のための仏教者国際ネットワーク)を創設しました。私たち三人は、よりコミュニティや土地に根ざした生き方が、人間や生態系の“しあわせ”にとって不可欠であるという信念を共有していました。同時に、従来の学校教育や開発による破壊的な影響も認識していました。

プラチャーとスラックは、私が友人たちとつくった、世界中のホリスティックな思想家たちが集う小さなネットワークにも参加、やがてその重要なメンバーとなりました。私たちがイギリス、アメリカ、オーストラリア、日本、ラダックなどで開催した会議でも、二人は講演してくれました。私は何年もタイに通って、彼らが展開する活動を支援してきました。

私たちの関心は、単なる議論のための議論ではなく、行動のためのアイデアについて議論することでした。私たち三人は、世界中の多様な文化を消費主義という単一文化で置き換えるような現在のグローバル経済システム−−そしてその基盤となってきた西洋近代的な世界観を拒絶することで一致していました。そのための活動を展開するために、思想や概念的な思考が重要なツールとなるという認識をも私たちは共有していました。

プラチャーは自ら本を執筆しながら、重要な本を出版したり、講演活動をしたり、国際会議に参加したりしました。また自ら教育プログラムをつくり、セミナーやリトリートを企画しました。それらはすべて、私が「ビッグピクチャー・アクティビズム」と呼ぶホリスティックな社会変革活動にあたる貴重な仕事でした。つまり、従来の「開発」、西洋モデルの学校教育、巨大都市化などを通じて、いかに、ローカルフード経済の瓦解、地域自立の侵食、文化的自尊心の喪失などが引き起こされていったか。その構造についての理解を広めることこそが、彼の、そして私たちの仕事だったのです。

こうした私たちの活動には、非暴力平和という信念が貫かれていました。内面的でスピリチュアルな探究の道と、外面的で政治的な活動の道は別々のものではありません。みな一つの旅を生きるのです。

プラチャーとの協力関係は40年以上にも及びました。私たちは、農業の地位を高め、農村の生活を改善するための一つの方法として、グローバル・エコビレッジ・ネットワークをいわゆる“低開発国”の既存の村と結びつけることに努めました。プラチャーは、私と仲間たちが手がけた映画や出版物のほとんどをタイ語に翻訳してくれました。『ラダック 懐かしい未来』をビルマ語に翻訳して、密かにミャンマーで広めてくれたのも彼でした。映画『幸せの経済学』にも出演して基調な発言をしてくれました。この映画は、INEBが国民総幸福(G N H)に関する国際会議でも上映されました。

わが友プラチャーとの40年にわたるお付き合いを通じて、私は彼がいかに多くの人々に影響を与えたかを知りました。数えきれないほど多くの人が、彼に促されて人間と地球を癒す運動に参加してきたのです。その人々の中で、プラチャーとその仕事は生き続けるにちがいありません。タイだけではなく、世界中の無数の人たちとともに、私はプラチャーを偲び、その死を惜しんでいます。


ぼくのゼミ生たちに講義するプラチャー 2019

ノンタオ村で、ジョニ・オドチャオ夫妻による「魂を集める儀式」を受けるプラチャー




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