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執筆者の写真ナマケモノ事務局

報告:「自然の権利を勝ち取ったコミュニティー南米エクアドル・インタグの森からの報告」

6月11日に開催された「ローカリゼーションデイ日本」前夜祭的な思いで,前日夜に企画した「自然の権利を勝ち取ったコミュニティー南米エクアドル・インタグの森からの報告」


ナマケモノ倶楽部設立のきっかけともなった南米エクアドルのローカルコミュニティ「インタグ」が、どうコミュニティにとって大切なものを守ろうとし、そしてそれが実を結んだのかというお話を、時差を乗り越えてカルロス・ソリージャさんから直接伺いました。その報告の一部をシェアします。通訳と解説は和田彩子さんです。

 

彩:エクアドルに来てから20年が過ぎました。反鉱山の活動を間近に見てきて、現地の人たちの粘り強さ、力を合わせて闘っているところをずっと見てきて、本当によく続けてこれたなといつも感銘を受けています。


カルロス:おはようございます。カルロス・ソリージャです。DECOIN(インタグの防御と保全の会)のメンバーで、インタグには1978年から住んでいます。敷地内の農園ではコーヒーとかキャッサバとか柑橘類を植えています。それから「ラ・フロリダ」という私設の森林保護区をもっていて、DECOINの活動はここで行っています。AACRI(インタグコーヒー生産者協会)の創設メンバーでもあります。



彩:まずエクアドルという国について簡単に紹介させていただきます。エクアドルは「赤道」という意味が含まれた名前なんですけれども、その名の通り赤道直下にある国です。面積は日本の4分の3ぐらい、人口は日本の10分の1、1200万人ぐらいです。気候風土で4つの地域に分けられます。一つ目はエクアドルの真ん中ぐらいに連なるアンデス地方。それからその東側に位置するアマゾン地方。3つ目が西側に位置する海岸地方。4つ目がガラパゴス諸島です。

インタグがあるのは山岳地方にあたるアンデス地方ですが、アンデス山脈の気候と熱帯気候とが混ざった非常に稀有な気候の地域です。地球上で生物多様性が多いにも関わらず環境破壊の危機に瀕している地域を「環境ホットスポット」と言いますが、世界にある36個の環境ホットスポットのうち、2つがこのインタグ地域にあります。そういった意味でもとても貴重な地域です。



1990年初頭、この地域に外資系企業による鉱山開発プロジェクトの話がきました。鉱山の埋蔵量調査の段階で日本政府も技術協力しています。ずっと地域住民の人たちの反対があって今に至るわけです。その詳細はカルロスさんにお話ししていただきますが、ここで注目したいのはインタグという地域がどれほど貴重な生態系を持っているのか、そしてそれがどのようにして守られてきたのか、またそれが日本とは無関係ではないということです。

エクアドルと日本の時差は14時間、物理的にも地球の裏側に当たります。そのエクアドルという国が日本とどれだけつながりがあるかと感じている方は、日本でもエクアドルでも少ないと思うんですが、実際は日本のみなさんの暮らし方や、日本政府や企業の指針がエクアドルの森の運命や、そこに暮らす地域住民の暮らしを左右しているわけです。ですから、鉱山開発によってつながるんじゃなくて、他のつながり方もあるということをみなさんに一緒に考えてほしいと思います。


問題の概要をまとめた7分の動画に日本語字幕をつけました。ぜひご覧ください。

 

インタグー楽園にしのびよる鉱山開発


 

カルロス:

インタグ地域で鉱物が発見されたところは、残念ながら世界で最も豊かな多様性をもつ雲霧林(うんむりん)の中にあります。この雲霧林にはスパイダーモンキー、2種類のカエル、魚など74の絶滅危惧種の動植物が生息しています。世界的にみても特筆に値する多様性をもち、そしてとても美しいところです。


1990年代に三菱マテリアルという日本の会社が、インタグの原生林に銅が埋蔵されていることを発見しました。この銅が見つかった地域を私たちDECOINが購入し、それを地域のコミュニティグループに譲渡しました。鉱山開発会社に森を売らないという意思表示でもあり、また鉱山開発に頼らない経済的自立の手段としてエコツアーを展開しながら、自分たちの森を守っていくためです。1999年から2000年のことです。


そのように取り組んできたんですけれども、2014年に警察がやってきて道路封鎖を強制解除され、見張り台のようなところも全部占拠されてしまいました。その後、チリの鉱山開発会社が4年ほどそこで鉱山開発活動を行いました。対象地の広さは4829ヘクタール。そこに2014年までに93個の穴、ポーリング調査と呼ばれるものですが、1000mぐらいの深さに穴を掘り、そこからサンプルを取り出す試掘が行われました。鉱山開発会社はさらに新しく160個の穴をあけようとしています。


この鉱山開発対象地域には、湧水スポットが43個確認されていて、少なくとも74種の絶滅危惧種が生息していることが分かっています。インカ文明前の文化もあってその遺跡的価値もあるところも破壊の危機にさらされています。滝もいっぱいあり、チリの鉱山会社が試掘で穴を開けた際には温泉も出たということです。つまり、エコツーリズムに適した場所なのです。

他には農業や酪農を営んでいるコミュニティもいくつかあります。ここで鉱山開発を行うということは、文化的・環境的、それから社会的な破壊をもたらすということを意味します。


ここで開発されようとしているのは銅山です。銅の採掘を行おうとしています。それを行うためにはコミュニティの人々は今住んでいる場所から移住しなければなりません。文化的・環境的・社会的な価値があるところを、経済を潤すためだけに破壊してしまっていいのでしょうか?私たちはこの多様な暮らしの豊かさやエコツーリズムの可能性と引き換えに何を得ようとしているのでしょうか?



雲霧林というのは山の中にある熱帯雨林のことです。雲霧林内の植物は世界一の多様性を誇ります。それは木の上にたくさんの着生植物が生息しているからなんです。ランそれからプロメリア。着生植物というのは別の植物の上に生息するんですけど、寄生植物と違ってその木を殺さないで共生する植物なんです。着生植物がすごく大事なのは、それらの植物たちが水源地を守っているからです。鉱山開発の人たちは「また植えればいいじゃないか」と言いますが、そうではありません。その生態系を破壊してしまったら元に戻すことはできないのです。


こういった豊かさを知ってしまうと、ここを破壊すことなんて到底考えられない。それでDECOINとその他の組織がこの文化的・社会的・環境的そして水源を保有する地域を破壊させるわけにはいかないと裁判を起こしました。


今回、私たちが起こした裁判は、エクアドル国憲法に明記されている「自然の権利」を訴えているものです。自然の権利というのはすごく興味深い法律で、法律を使って、環境に与える負荷を最小限にできる可能性があります。川なり森なりそういった自然そのものに権利があるという考えです。

先住民の人たちは古くから、生きとし生けるものすべて、あるいは生きていなくてもこの世に存るものには全て権利があると考えてきました。森にも人間と同じように、そこにいる権利、いのちを更新していく権利はあるんじゃないか。


また、エクアドルの土地法では、地上は誰かが買ったとしてもその地下の権利は国に属するんです。そ国がその資源を掘削する必要があるときには、地上に住んでる人たちやコミュニティに事前に情報を公開して協議する義務があります。それは憲法上で保障されてるんですけれども、それがこのインタグの鉱山開発問題に関して守られていないということで、今回、国を相手に裁判を起こしました。そして今年の3月27日にその裁判に勝つことができたわけです。このことがきちんと認識されて環境保護につながっていくことを願っています。


中村隆市さんコメント:

私はインタグの鉱山開発問題に出会って25年経ちます。インタグの住民たちを日本に25年前に招待して、その4ヶ月後に今オーストラリアにいるアンニャ・ライトと辻さんが企画したインタグへのエコツアーに参加しました。その時に一緒に行ったのが今日通訳してくれてる和田彩子さんやさっき質問してた由里佳さん。そこでのインタグとの出会いがナマケモノ倶楽部ができたきっかけでした。


カルロス:

ナマケモノ倶楽部創設に関わることができてとても光栄です。皆さんの長年のサポートにも心から感謝しています。日本でインタグのコーヒーを買ってくださることで経済的な支援はもちろん、気持ちで寄り添ってくれた部分がすごく大きかったです。最初の頃は世界の誰も自分たちのことを知らなくて、お金もなかったところに皆さんが、特にウインドファームが支援してくださったことは、本当に心の支えになりました。


こういう闘いはものすごく気持ちがすり減っていきます。本当にもう自分の魂が削られていくような感じです。でも、ここに住んでいると、この森や大地がなくなることの方がとても耐えられないと分かります。この森とのつながりこそが自分を生かしてくれているのだと。だとしたら闘わないわけにはいかない。この雲霧林こそが私のエネルギーの源です。


自分たちだけじゃないものたちの生命も全部一緒に抱きしめるというか、一緒に生きていく。すべての生きとし生けるものが権利を持っていることを意識していく。唯一の希望はここにあると思います。

インタグの戦いは終わったわけではありません。世界のエネルギーとしての銅の需要はまだ高い。インタグに銅がある限り、その脅威は続くと思います。だからこそ、私たちは命はお金よりもっと大事で、文化的社会的境的そして水資源こそが豊かさだということを、インタグの人たちだけではなく、世界中の人たちと高めていくことが大事だと思います。



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