「私は国際折紙講師です」と言うと「そんな資格があるんですか?」と感心してくれる人が多いのですが、私の返答はいつもこう。「すみません。そんな資格はなくて、自分で名乗っているだけです」趣味が高じて仕事になり、折り紙で生まれるしあわせの輪を広げ、宇宙の平和の一役をになっています。(壮大!)
「折り紙は造形の美、簡素美の極致です。そして、世界を結ぶ愛のことばです。私は世界中を、折り紙のお花畑にしたいと願っています」折り紙界の巨匠の故吉澤章さん。
(出典: 国際折り紙研究会「造形おりがみ用紙」添付の説明文)
「エジプトの野ラクダ」筆者が制作。
折紙は、どこでも、誰でも、気軽に和ができるコミュニケーションツール。折紙を折りながら、悪巧みはできません。私が、十数年前に某外資系企業で事業部長として昼間はあの手この手で打ち負かすことばかりしていた頃、夜中に折り紙をしていると、ふと思ったものです。「僕って実は良い人じゃん!」(笑)
折ると心が安らぎ、折り上げた時に笑顔がこぼれます。 周りの人へ伝え、人から人へと伝わると、安らぎと笑顔があふれる世の中になります。宇宙は、みんなの集合意識で動いていますので、ひとりひとりの意識が変わると、宇宙的な愛と調和が満ちていくのです。
「愛の蓮」筆者が創作。葉は笠原邦彦さんが創作。
私は国内外のさまざまな人に対して、各地で折紙講習やパフォーマンスを行っています。10年間でのべ3000人に講習。折り紙のおかげて、イベントで本物の忍者とご一緒したり、世界的音楽家のお子さんに個人講習をして友達になったり、出先で出会う人や知人友人と和みの場を作ったりしてきました。(詳細はこちら)
筆者の国際折紙講師の活動の様子。
誰でも何かしら、折り紙の思い出があることと思います。私は、保育園児の頃、思いを寄せる女の子に、折り紙の折り方を教えてあげました。初恋でした。小学生の頃は、よく紙飛行機を折って遊びましたが、桃谷好英さんの「空とぶ鳥のおりがみ 」と言う本に出会い「鳥の形をして、しかも飛ぶなんて!」といたく感動し、独自の作品を作ろうと紙をよくいじっていたことを覚えています。
それから30年ほどたち、今から10年ほど前に近所の図書館で、その本を発見。一通り折って感慨にひたり、それから、YouTube の動画や折り紙の本からさまざまな折り紙を発見して、とても衝撃を受けました。「30年で折り紙が劇的に進化していたのです」
その進化の一因はコンピューター化です。例えば、折り紙を創作するには、大きく二通りあります。一つは、できる形を予想しながら折るという試行錯誤、もう一つは、正方形の中にいかに三角形を配置するのか、展開図を設計してから折る方法です。
左は小松英夫さん創作の「馬」を筆者が制作。右が展開図。
なお、この手法を助ける設計ソフトウェアが多数開発されています。また、インターネットの普及と相まって愛好家や創作家の交流が盛んになり、さまざまな折り畳み法則も発見され、折り紙の技巧は日々進化し続けています。一枚の正方形から切らずに接着せずにつくるという制約が、絶妙に創造性を引き出しているのです。
「ヤドカリ」神谷哲史さんの講習で筆者が制作。
ところで、あなたは「ミウラ折り」を知っていますか? はい、地図に採用されている折り目で、パッと開いてサクッと畳める、あれです。ミウラ折りは、50年前に太陽光パネルを畳んでロケットで運び、宇宙で広げて、壊すことなく持ち帰るプロジェクトで開発されました。現在もさまざまな折り畳み方を産業へ応用する研究が大学など各所でなされています。
ミウラ折りの「クジャク」前川淳さん創作を筆者が制作。
それから、折紙は数学の研究や数学教育に利用されています。作図の難題のひとつに「デロスの問題」というものがあり、コンパスと定規を使うユークリッド幾何学では解けませんが、折り紙を折ることで解を導き出せます。
(詳しくは「すごいぞ折り紙」阿部恒著をご参照)
なかなか奥の深い折り紙ですが、私にとっては「今ここに在るための所作」です。折るという簡素な動きをよく見つめて行う点で、呼吸を見つめるマインドフルネス瞑想などと似ています。
ものの本によると、ヨガ八支則の最終段階の悟りに向かう瞑想を起こす前段階に、精神統一という修行があります。例えば、お坊さんが、砂で精緻な模様をつくり、完成後に執着なく崩すというもの。私は、100工程かかるような精緻な折り紙作品(折鶴は15工程)を、ひと折り、ひと折り、感嘆しながら作りあげても、執着はなく、その感動を人に分かち合うために見せて、欲しいという人がいれば、差し上げています。
私は、どこに行く時も折り紙用紙を持っていきます。人に会う前の電車移動中に立ったまま、小粋な折り紙作品を折って、会う人に贈ります。大阪のおばちゃんがアメ玉を誰にでも配るのと似ている気がします。日々、折り上げた作品は、折り紙講習の生徒さんにまず披露して、喜んでもらい、その後は会う人に差し上げたり、手紙に添えて贈ったりしています。
人に贈るために折るときは、その人が幸福の雨あられに包まれることを想像しながら作ります。手渡しや手紙で贈る折り紙は、印象に残り、大切にしてくれるようで、何年もたってからでも「今ももらった折り紙を飾っているよ」と応えてくれることが多いです。有り難く嬉しいことです。
折り紙の「折り」は「祈り」、「紙」は「神」。広島のサダコの千羽鶴のように、折ることで祈りにつながり、精神統一で、自分のなかの「神性」に目覚め、純粋に今この瞬間を豊かにする。そのような行為だと思うのです。
「ダイヤモンド格子連鶴」南樹さん創作を筆者がアレンジ。
さあ、あなたも折り紙をしてみませんか?幼い頃、好きな人に無心でプレゼントしたように。童心に返って純粋な気持ちで、折って和み、出来て感動、贈って嬉しい折紙を。きっと、心の底のあなたの中心が、喜ぶと思います。お読みいただきありがとうございました。魂から感謝します。(^^)
参考文献
「博士の折り紙夢BOOK」:川崎ローズで有名な川崎敏和さんの著書で、川崎さんの作品を含む、古今東西、時代を超えた折り紙の傑作選。私のお勧めの本で、いろんな人にプレゼントしてきました。
沓名 輝政(くつな てるまさ)
ナマケモノ倶楽部会員。たのしあわせ研究所所長。国際折紙講師。日本折紙協会認定講師。日本折紙学会認定指導員。Eテレ「天才てれびくんYOU」に折紙の専門家として出演。銀座三越の地下食品売り場の装飾用折り紙作品を提供。「世界の人と楽しむ折り紙」(山梨明子、藤本祐子 共著、日貿出版社)の英訳と英文校正を担当。
1972年愛知県生まれ。大学で物理を学び、GEなど日欧米のメーカーに20数年勤務。技師、技術営業、プロダクトマネージャ、事業部長を歴任。2010年に那須非電化工房の「地方で仕事を創る塾」第1期を卒業後、月3万円ビジネスから着想して、2012年にマザーアースニューズ日本版を創刊、2015年にリサージェンス日本版を創刊。
2016年より市内小中学校PTAなど教育関連の職務を歴任。平日昼間は企業の翻訳エンジニア。朝晩は個人事業主。土日祝日は家長兼長男。妻、娘、息子と、畑、林、神社とお寺に囲まれた木の家で「わくごん = ワクワクごきげん」に暮らす。
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