top of page
執筆者の写真Aya Wada

カブヤ 〜インタグの女性たち〜

 今回は、インタグの女性たちが作る「カブヤ」と言われる素材の手工芸品とそれを作る女性グループをご紹介したいと思います。

 

 カブヤというのは、リュウゼツランの一種で、別名サイザル麻と言われるものです。昔からインタグでは、この麻を使って紐や縄やずた袋を生産してきました。車道ができる前まではそれをラバや馬に乗せて町まで数日間かけて運び、売り、帰りには塩や石鹸、油などを買って戻ってきていたといいます。カブヤ生産は、ほんの30年ほど前までは多くの農家が一家の収入をそれだけに頼っていたほどの一大産業でした。しかしこの数十年で、丈夫で安価な合成繊維のロープなどが流通し始め、カブヤで作られた自然繊維の縄などは今では市場の片隅で売られている程度になってしまいました。


カブヤ:鋭い棘が葉の周りにあり、誤って葉のそばを通ると皮膚が簡単に切れてしまう。


 何度かここでも書いていると思いますが、このエクアドル北部のアンデス山脈の中腹から麓に位置するインタグは、自然がとても豊かな地域です。世界の数十ヶ所しかない環境ホットスポットの二つに挙げられているほどの生態系を有しています。しかしそれは同時に豊富な地下資源もあることを意味し、90年代初頭から、国内外の鉱山開発会社のターゲットとなってきました。鉱山開発は、森林伐採や大量の土の掘削を行うため、住民たち各々の経験や、環境アセスメントによって、環境や社会的悪影響を及ぼすことがわかっています。


インタグの典型的な風景。延々と続く谷間に豊かな自然が広がる。


 しかし雇用を生み出したり、立退料を得られたりと、持続可能ではないと分かっていても短期間で現金収入をもたらすため、拳を振り上げてNOというのは、生活が苦しい零細農民の立場からすると難しい。そこで森林農法で育てるコーヒー生産やエコツーリズムなどの、環境を守りながら、収入を得られるオルタナティブがたくさん生まれました。その一つが、女性たちが作るカブヤ製品です。

美しく染められたカブヤ繊維。このあと糸に紡ぐ。


女性たちが作る作品の数々。


 前述した通り、カブヤ製品は元々縄や袋を作るためのものでしたが、これを紡いで糸にして、編み、バッグやマットレスなどの手工芸品を作ったらどうだろうというアイディアが女性たちの中から生まれました。最初はカブヤの元々の色である生成色のものだけでしたが、在来植物を使い、試行錯誤を重ねて、さまざまな色の糸を作ることができるようになりました。形や編み方も、家事や子育て、畑の仕事の合間を縫って、少しずつ質を向上してきました。近年ではYoutubeを見たりしながら学び、その商品はバラエティーに富んだものになっていったのです。農村部における女性たちで安定した収入のある仕事を持っている人というのは実に限られていますが、女性たちは、家事や畑仕事、子育ての合間を縫って、製品を作り、作ったものを観光客や展示会で販売し、収入につなげてきました。収入の6%は、グループの共有の貯金箱に貯金され、展示販売する際の旅費や経費に当てたり、またメンバーの緊急時にはお見舞い金として使っています。最近ではこの資金を使って、小さな展示場も作りました。


女性たちの展示場。中にはたくさんの商品と、作業工程のパネルなどが展示してある。


 実は先日、このカブヤに並々ならぬ情熱を抱いた女性が日本からいらして、その展示場があるインタグのプラサ・グティエレスというところまでお供させていただきました。これまで何度も女性グループたちのカブヤ製品の説明やデモンストレーションを見てきましたが、私も初めてみる!!という工程もたくさんあってとても興味深かったです。



カブヤが商品になるまでにはたくさんのステップがあります。順に:

  1. カブヤの苗木の植樹収穫できるまで3年かかる。

  2. カブヤの葉の収穫する。

  3. ギザギザの棘を取る。

  4. 機械を使って葉を潰して、繊維をほぐす

  5. 繊維を洗う

  6. 数時間から数日間繊維を干す。干した直後はまだ緑が残っている。

  7. 数日干すと、生成色に。

8.〜11..    繊維を様々な植物で染める。

  1. 鍋で植物と一緒に繊維を煮る。鉄鍋かアルミ鍋かで色合いが変わってくる。

  2. 繊維にワックスをかける。このワックスは、教会で使ったロウソクの残りをもらって使うそう。

  3. 最低30分休ませる。

  4. 木に釘を打った櫛(!)で繊維をとかす。

  5. 棒にまとめて巻きつける。

  6. 糸に紡ぐ。

  7. 紡がれた糸。

  8. 紡がれた糸。左は自然の無着色のもの。右は黒胡桃を使って染めたもの。

20.〜21.  鉤針や編棒、あるいは織り機を使って、バッグやポーチ、鍋敷き、マットレスにする。

 

 こうして様々な工程を経て、豊富な種類の作品が出来上がっていきます。


女性たちのストーリーがラベルに綴られている。そこに、作成した女性たちが名前と商品名と自分でつけた価格を書く。販売時にはピッとこの紙を取り、会計をするので、誰がどれだけ売ったか分かるようになっている。

 

 女性たちにとってカブヤ編み製品づくりは、単なる経済的な収入以上の意味があります。残念ながら、インタグのような農村部においてはまだまだ男尊女卑の傾向が色濃く残っています。けれども、自分たちの収入がある=家庭内の出費の決定権をもつことができる。子どもたちの世話を担っている女性たちは、夫にお伺いを立てることなく、教育費や医療費、被服費にお金をかけることができるようになりました。それは子どもたちに教育を受ける機会を増やすと同時に女性たちに精神的な自立を促しました。夫たちも妻たちは自分のお世話係ではなく、仕事を持つ一個人であるという認識をするようになり、今では、夫たちも夜なべをする女性たちの作業を手伝うようになったと言います。集まることを通して、女性たちは嫁姑関係や子育ての悩み、畑仕事、料理のこと、流行り、村のお祭りなど日々の家庭内外の雑事を井戸端会議的に共有していく。そうして女性たちは結束を固めると同時に、なかなか立ち話程度の短い時間では、あるいは男性がいる場では話しにくい、家庭内暴力や望まない妊娠、子どもたちの性の問題なども語り合うことができるようになり、時には励まし合い、時にはアドバイスをし合い、解決方法を模索するようになっていきました。展示販売のためインタグの外へ出ていくこと機会も増え、イベントの参加を計画し、実行していく能力も身につけていきました。こうした場で自分たちのカブヤにまつわるストーリーを伝えるために、自分が暮らすインタグの環境やそれを取り巻く問題、そこで果たすカブヤ製品の役割をまた改めて学び、外へ語りかけることができるようになりました。そこでまた別の女性グループたちと知り合い、それぞれの抱える問題等を共有しあい、グループ内で解決できないことは、外部の専門家に頼ることも学んでいったのです。


会合や納品の様子。不備はその場でささっと直す。


 女性たちがこうして育んだ女性グループも、当然のことながら常に順風満帆だったわけではなく、大小様々な小競り合いや問題が立ちはだかりました。教育を受けていないが故に文字が読めない人がついていけなくなったり、夫の理解を得られなかったり、嫁姑問題や意見の相違でグループを離れていく人もいました。でも、それを乗り越えて私たちにこうしたストーリーを語ってくれる女性たちはキラキラしています。女性たちは男性の付属品ではない。言われたことをしていくだけの受け身の人間ではない。そんな当たり前のことでありながらないがしろにされてきた女性たちが主体的に生きる権利を認識できるようになったことが、たくさんあるカブヤ作りの意義の中で一番大きなことなのかもしれません。



一部、なかしまゆきのさんのお写真をお借りしました。ありがとうございました!


 

 

 

閲覧数:291回

Comments


bottom of page