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執筆者の写真信一 辻

ガザの惨劇をどう捉え、どう言葉にするのか (3)

 


パレスチナ、ベツレヘムのキリスト生誕教会(2018年11月)


ガザ侵攻が始まって以来、イスラエルへの批判には、ほとんど常に“アンティ・セミティズム(反ユダヤ主義)”というレッテルが貼られてきた。そればかりか、人道的な観点から停戦を訴える人や、10月7日のハマスによる攻撃に至る歴史的背景に言及する人さえ、容赦なく反ユダヤ主義として糾弾されてきた。しかし、これは今に始まったことではない。

 

ジェノサイド防止の国際活動を展開するアンドリュー・ファインスタイン(元南アフリカ国民会議議員)は言う。毎日平均247人が殺されている。うち、女性は48人、子どもは117人。これが半年も続いてるのを、どうすることもできないほどに世界の社会システムは麻痺してしまっている。

 

「私はユダヤ人です。母はホロコーストで生き残った女性20数人のうちの一人。彼女の家族はすべて殺された。人種差別に常に反対し、ジェノサイド防止の活動に身を捧げてきた。その私をつかまえて反ユダヤ主義と呼ぶのは、なんというか、あまりにもバカげている(アブサード)としか、いいようがありません」(アンドリュー・ファインスタイン)

 

このバカバカしさは、しかし、笑ってすますことができない。それは同時に危険極まりないものらしいのだ。バカバカしさをバカバカしさと言うことができないばかりではない。そう認識することすらできない。それは一種のタブーなのだ。踏み込むことのできない聖域。

 

一切の批判からユダヤ人を守り保護するはずの安全地帯。その周りにはタブーの壁が張り巡らされている。そのタブーに触れるものは、「アンティ・セマイト(反ユダヤ主義者)」と呼ばれ、激しい叱責を受けるだろう。もっとひどいときには、「ナチス」とも罵られるだろう。イスラエルという国家はただの国家ではない。なぜならその存在自体が、タブーの壁で守られた“聖域”だからである。

 



さて、今日は5月5日、子どもの日だ。日本のメディアでは、「少子化」問題でにぎやかだ。ぼくの心は、しかし、パレスチナで殺された、さらなる爆撃や飢餓で感染症で殺されつつある何万という子どもたちの方へとすぐに向かってしまう。

 

イスラエルによるガザへの侵攻が始まってすでに7ヶ月が経とうとしている。先月からアメリカの大学では、イスラエルや米政権に抗議するデモが拡大し、5月1日には、警察による大規模な取り締まりがあって、多くの学生が拘束されたばかりだ。メディアではこうした抗議活動について「親パレスチナ」、「反イスラエル」という形容詞が安易に使われるが、特に問題なのは、こうした報道が同時に「反ユダヤ人」の動きでもあるというという印象を与えてしまうことだ。現に、ユダヤ国家イスラエルに向けられた批判は、そのまま反ユダヤ主義的であるという受け取り方が世界中に広まってしまっている。

 

例えば、今アメリカのキャンパスにテントを張って声を上げる学生たちは、何を主張しようとしているのか、見てみよう。スローガンの中で特に目立つ言葉は「ダイヴェスト」、つまり、投資をやめろ、という要求だ。アメリカの主要大学は一般に、学費の他に、寄付や基金運用で財源を確保するのだが、基金をどこに投資しているのかをまず開示せよ、と学生たちは要求している。そして、イスラエル軍が使う武器を製造する企業への投資を停止するように求めているのだ。

 

こうした動きの背景に、この半年にわたってアメリカ各地で展開されてきた即時停戦を求める運動がある。その主張の柱は、イスラエルを支持するアメリカ政権が、イスラエルに武器を供与し続けることによって、現在までにわかっているだけで3万4千人以上の死者を出したジェノサイドの片棒を担いでいる、ということだ。ことに重要だと思われるのは、こうした運動の中心に、「平和のためのユダヤ人の声(J V P」というユダヤ系アメリカ人の市民組織だ。

 

そのサイトを覗いてみよう。

 

「私たちの計画、それはイスラエルによるパレスチナ人抑圧に対するアメリカの支援に終止符を打つこと」とある。最新のニュース欄には「シオニズムからの脱出」というタイトルで、こう書かれている。

 

「イスラエル政府によるガザでのパレスチナ人大量虐殺から7ヶ月近くが経過し、私たちは心を痛め、怒りに打ちひしがれている。パレスチナ人が愛する人々を集団墓地から掘り起こす一方で、バイデン政権はイスラエルへの数十億ドルの追加軍事資金を承認した。

しかし、私たちは揺るぎない意志を持ち続けなければならない。それは、私たちの名において実行され、私たちの税金で賄われているこの大量虐殺を阻止するために全力を尽くすという道徳的要請があるからだけではなく、潮目が変わりつつあることを知っているからである。イスラエルのアパルトヘイトとジェノサイドからの撤退を要求するために、わずか数日のうちに、全米の大学キャンパスで100を超える連帯の野営地が出現した。これは、ベトナム戦争に対する抗議運動以来、最大の学生運動である」

 

「平和のためのユダヤ人の声(J V P)」のステファニー・フォックスは、最近のデモで、こう叫んだ。

「私たちユダヤ人の名において、しかも私たちの税金を使って、パレスチナで行われている歴史的な残虐行為を止めるために、私たちにできるすべてのことをしなければならないと、ユダヤの伝統のすべてが私たちに迫っている」(ニューヨーク・タイムズ紙 2024年4月23日)


(続く)

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