親愛なるナマケモノ倶楽部の仲間たちへ
いよいよ明日、ナマケモノ倶楽部の最良の友として、また師として、25年にわたって私たちの多くにとってのインスピレーションの源であり続けてきたサティシュ・クマールが来日する。4年半前に計画され、準備万端整っていた来日ツアーが、コロナ・パンデミックの到来とともにキャンセルとなって以来、ツアーのコーディネートの一切を引き受けてくれた上野宗則さんとぼくにとっては五年越しの夢がようやく叶おうとしている。
今日、ぼくの手元に、待ちに待ったサティシュの新刊『ラディカル・ラブ』の日本語版(発行SOKEI、辻信一訳)が届いた。そう、危機に立つ世界を救うものがあるとすれば、それは愛、しかも、ラディカル(根源的)な愛だというサティシュの言葉に耳を傾けるときだ。そしてその愛が他ならぬ、自分自身の内奥深くに息づいていることに気づき直すとき。
さて、愛と非暴力による世界平和のために生涯をかけてきたサティシュが日本にやってくる直前に、イスラエルによる暴虐にさらされているパレスチナで非暴力の旗を掲げて平和活動を展開してきた「ホーリーランド・トラスト」から、今月、二つの便りが届いたので、皆さんにお届けしたいと思う。
ホーリーランド・トラストの代表、サミ・アワッドは、2019年にナマケモノ倶楽部も参画した「しあわせの経済」国際フォーラムにはるばるパレスチナのベツレヘムから参加してくれた、パレスチナのガンディーとも呼ばれるあの人だ。
一通目はホーリーランド・トラストが取り組む非暴力抵抗運動の意味について。二通目は、その運動の象徴でもあるオリーブの木と、パレスチナ再生の象徴でもあるマクルール渓谷が、今イスララエルの攻撃によって危機に晒されている現状と、それに抵抗する闘いについての報告だ。
パレスチナ人を丸ごとテロリストや暴力集団、果ては”半獣半人”とみなすようなイスラエル権力者のプロパガンダに抵抗しよう。そして、パレスチナとイスラエルの双方で愛と非暴力による平和を求め行動している人たちと連帯しよう。
ナマケモノはスローでスモールでシンプルな生き方のシンボルであると同時に、平和と非暴力の象徴だ。
サティシュの来日ツアーと新しい本が、皆さんにとってのよき学びのときとなりますように。
10月30日 辻信一
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パレスチナからの便り①
パレスチナに非暴力抵抗の旗を掲げ続ける
「非暴力は人類が自由に使える最大の力である。それは、人間の知恵によって考案された最強の破壊兵器よりも強い」 マハトマ・ガンディー
非暴力の抵抗は、正義を求めるパレスチナ人の長きにわたる闘いの礎石です。それは、平和的な行動が抑圧者をも変革する力をもつという信念に根ざしています。世界中の民衆による非暴力抵抗や、ネルソン・マンデラ、マハトマ・ガンジー、マーティン・ルーサー・キングといった指導者たちの教えに薫陶を受けながら、パレスチナの人々は自由へと至る非暴力の道を選んできました。これらの運動が教えているのは、抵抗は常に暴力の形をとらざるを得ないという発想を超えて、代わりに自分の権利と尊厳を平和的に主張することができるということです。
ホーリーランド・トラストは、ヨルダン川西岸地区で、非暴力抵抗運動が地域社会に根づくのを支援してきた最初の主要団体のひとつです。以来、私たちは、コミュニティに力づける活動を続けています。20年以上にわたり、ホーリーランド・トラストはパレスチナ人が自分たちの葛藤や希望を表現するための場を提供してきました。そこでは、アート、対話、教育などが抵抗の手段となります。レジリエンス(しなやかな抵抗)の精神を育むことで、暴力に頼ることなく、抑圧された人々の声が世界に届くように努めているのです。
ホーリーランド・トラストは、住宅再建、C地区(イスラエルが行政権、軍事権ともに握っているエリア)におけるコミュニティ支援、非暴力コミュニケーションのトレーニング、そして国際的支援の拡充などにも取り組んでいます。ホーリーランド・トラストはまた、パレ地におけるこれらの取り組みを世界的な文脈へとつなげてきました。例えば、ネルソン・マンデラが率いた南アフリカの反アパルトヘイト運動は、パレスチナの大義と深く響き合うものです。こうしたつながりが思い起こさせてくれるのは、連帯が国境を超えるものであること、そして自由と正義のための闘いは普遍的なものであることです。
アートセラピー、教育ワークショップ、非暴力抗議活動などのプログラムを通じて、ホーリーランド・トラストは、平和と正義を非暴力的な手段によって達成することが可能な未来への道を開き続けています。(2024年10月)
パレスチナからの便り②
オリーブ収穫の時:しなやかな抵抗の季節
「オリーブの木は平和、抵抗、不動の象徴である。オリーブの木は、私たちの遺産であり、私たちがこの土地に根ざしていることを象徴している」。 マフムード・ダルウィシュ(パレスチナの詩人)
「オリーブの木はパレスチナ人の魂であり、生命の源である。オリーブの木を根こそぎにすることは、自然に対する攻撃であるだけでなく、私たちのアイデンティティと尊厳に対する攻撃なのだ」。
ヤーセル・アラファート(パレスチナ自治政府元大統領)
オリーブの収穫は単にパレスチナの季節を意味するものではありません。それは伝統、コミュニティ、忍耐を祝う祝祭の時なのです。幾世代にもわたって、オリーブの木はパレスチナ人の生活の柱であると同時に、深い文化的ルーツと人々のしなやかな抵抗力のシンボルでした。長年の紛争や占領、経済的な辛苦にもかかわらず、農民たちは誇りをもってオリーブを収穫し続け、この神聖な伝統を守り続けてきたのです。
ホーリーランド・トラストが環境保護に力を入れているワディ・アル・マクルールのような地域(注)では、収穫期は一層特別な意味をもっています。緑豊かで肥沃な渓谷は、古代の段々畑やオリーブ畑、多様性に富んだ植物が生い茂る一級の農業地帯でした。しかし、イスラエルによる無法な土地の没収や入植者による暴力など、パレスチナ人農民の生活そのものを脅かす脅威に常に直面してきたのです。今年のオリーブの収穫は、危機からのたくましい再生の象徴となり、自分たちの土地や歴史を明け渡さないというマクルールの人々、そしてパレスチナの人々による意志表明の意味をもつことでしょう。
土地没収の脅威の中で、オリーブ収穫期を迎えたマクルール渓谷
ベツレヘム県に残された最後の開けた自然地域であり、ユネスコの世界遺産にも登録されているワディ・アル・マクルールは、今、危機に直面しています。このかけがえのない景観の管理者として、これを保護することは私たちの責任です。
ヨルダン川西岸の他の多くの農業地域と同様、ワディ・アル・マクルールでもイスラエルによる土地没収の動きが活発化しています。入植者による暴力、オリーブの木の破壊、入植地拡張のためのパレスチナ人の土地併合の試みは、現在進行中の脅威です。パレスチナ再生の象徴であればこそ、植えてから実を結ぶまでに10年もかかるオリーブの木が、こうした侵略の際にしばしば根こそぎにされるのです。それが、農民にとって精神的にも経済的にも大きな損失となるのは言うまでもありません。根こそぎにされるオリーブの木の1本1本が、農民たちの暮らし、自然景観、文化遺産を脅かすのです。
ホーリーランド・トラストは、先頭に立って、こうした問題に取り組み、農民を支援しています。そのために、人々の意識を高め、法的支援を提供し、“#alleyesonmakhrour”(マカルールの小道)というキャンペーンを進め、国際的連帯を働きかけています。皆様の協力の下に展開される私たちの運動は、この大切なマクルール地域を守り、その遺産を未来の世代へと継承するために不可欠です。
危機に瀕したワディ・アル・マクルールは、私たちの見守りと保護を求めています。この土地の世話役としての私たちの責任は、歴史遺産だけでなく、自然を、大地を、地球環境を守ることなのです。
本年も、ホーリーランド・トラストの “#alleyesonmakhrour” キャンペーンは、農民たちが脅威の中でもアル・マクルール渓谷で安全に作物を収穫できるよう応援します。(2024年10月)
(注)マクルール渓谷を含む世界遺産バティールについては、世界遺産オンラインガイドにこう書かれている。https://worldheritagesite.xyz/olive/
「オリーブとワインの地パレスチナ – エルサレム地方南部バティールの文化的景観」は、緊急に保護を必要とする物件に適用される緊急登録として申請されました。2014年、世界遺産に登録されると同時に危機遺産にも登録されました。
緊急登録の理由はイスラエルの分離壁建設計画による景観の破壊で、バティールはエルサレムの南西7kmにあり、古代からエルサレムの衛星都市として繁栄しました。
古来オリーブやブドウの生産が盛んで、石を積み上げて造った棚の壁は総延長554kmに及び、こうした壁や地下水を利用する灌漑システム等は現在も使用されており、人と自然の共同作品=文化的景観を構成しています。
以下、ウィキペディアには次の記述がある:
ベツレヘム県は、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区南部の県。 県都はベツレヘム。・・・面積は659km²で、西岸地区の11.7%・・・。パレスチナ解放機構よると、2020年現在、ベツレヘム県は依然として87%がイスラエルの占領下にある。県内にはイスラエルの違法なユダヤ人入植地が18存在し、ベツレヘムの市街を取り囲む形になっている。・・・イスラエルが建築した分離壁により、エルサレムとベツレヘム市街地は分断されている。同様に、マル・エリアス修道院はベツレヘムから切り離された孤島と化している。
2019年には、イスラエルはユダヤ民族基金の資金により、世界遺産・バティールの一部であるアル・マクルールに、新たな入植地を建設した。2020年だけで、イスラエルは県内に5522棟の入植を許可し、また工業団地の建設許可を行った。また、私設のプネイ・ケデム入植地を公認した。また、県内で約1530本のパレスチナ人の林業・農業用樹木が、イスラエルによって伐採された。
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