
トランプについて言い出したらキリがない。トランプ批判をやろうと思ったらフルタイムでも追いつかない。この数ヶ月、彼にまつわるニュースが多すぎて、それに付き合おうとしたらそれこそ1日がそれだけで終わってしまう。
見たくない、聞きたくない、、、
とはいえ、みんなが無視して、批判をやめ、抵抗を諦めたら、どうなるだろう。
無視、無関心もまたトランプとその類の思う壺。彼とそのパートナーを演じる大富豪マスクは、人類史上最も大きな権力・軍事力・財力をその手に、本気で、全世界を所有できると考え始めている。
戦争を止めたかったら、ウクライナの地下にある貴重資源をよこせ、パレスチナ人を他所へ行かせて、ガザは我々が所有してこの世のパラダイスをつくる・・・
今、大切なことは、敢えて立ち止まり、大きく深呼吸する。そして、まずは表層への囚われから自分を解放することだ。そして、目の前に展開する事象(例えば、トランプ劇場、ガザのジェノサイドなど)から身を引いて、その事象を取り巻く“ビッグ・ピクチャー”を描き出し、その大きな文脈の中で改めて眼前の事象を捉え直す。例えば、ガザの惨劇を、ナチスによるホロコースト、イスラエル建国の背後にあった欧米列強の目論見、1948年のナクバやそれ以来繰り返された民族浄化(エスニック・クレンジング)、それを支えた人種主義イデオロギーとしてのシオニズム・・・などという一連の出来事を含むビッグ・ピクチャーなしに、理解することはできない。そのビッグ・ピクチャーを基盤として、自分たちの立つ場所を知り、自分たちにできる行動を考えだし、実行する。それが、わが友ヘレナ・ノーバーグ=ホッジが言う「ビッグ・ピクチャー・アクティビズム」だ。
(ここで余談:ビッグ・ピクチャーの対極にあるのがナルシシズムだ。その言葉はギリシア神話に登場するナルシスに由来する。水に映った自分の姿に恋をしたナルシス。トランプもマスクも現代のナルシスだ。せめて水仙のは何でも生まれ変わってくれといいのに。)
例えば、日本のマスコミは連日、トランプの「関税」をめぐる発言や政策に一喜一憂している。日本が対象から除外されれば、良いニュースで、他の国と同様に関税の対象とされれば悪いニュース。石破首相のあの慣れない愛想笑いに背筋が寒くなる思いがしたのはぼくだけだろうか。
トランプは「タリフ・マン(関税男)」を自称している。(ビートルズの「タックス・マン」を意識したのかな?)トランプファンにとっては、関税=よいこと、トランプ嫌いにとっては関税=悪いこと、という図式が出来上がる。しかし、そこで必要なのがビッグ・ピクチャーからの理解なのだ。
そもそも関税は悪いことなのか? 関税を悪者に仕立てあげたのは、新自由主義というイデオロギーであり、グローバル経済システムなのだ。巨大多国籍企業が国と国との障壁を超えて、自由に市場を世界中に拡大し、最大限の利益を上げるために、各国に自由貿易協定を押しつけて、それぞれの国に、そしてその国の各地にあった地域(ローカル)経済を、そしてその経済に支えられたコミュニティや文化を破壊していった。そのプロセスの重要なステップが関税の撤廃だった。逆に言えば、関税とは各国内の経済や産業を、そして地域の経済と暮らしを守るための、大切な自衛の仕組みだったのである。でも、当時も今も、そんなことを言うと、すぐに「保護主義」という批判(というより罵声)が飛んでくることになっている。
ところで、ビッグ・ピクチャーから見れば明白なのは、トランプは関税が好きなわけではなく、彼にとっては、関税は他国に自衛のための障壁である関税や、国内のさまざま規制をさらに解除させて、米国とそこを拠点とする巨大企業の餌食とするための武器だということだ。実はこれ自体は、共和党だろうが、民主党だろうが、この数十年のアメリカ政府がやろうとしてきたことに矛盾していない。その点では、トランプも他のグローバリストや新自由主義者と同じ穴のムジナなのだ。ただ表面的にこれほど大きな亀裂を政治の世界に引き起こしているように見えるのは、彼が、これまでのリーダーたちと違って、ナショナリズムとグローバリズムという一見矛盾する二極を強引に結合しているように見えるからだ。
しかし、ビッグピクチャーから見れば、こうした結合は、80年代以降世界を席巻してきたグローバリゼーションの破綻を示している、ということがわかるだろう。またそれは、ナチス・ドイツの台頭がそれまでの帝国主義世界の破綻を示す現象であり、当時におけるナショナリズムとグローバリズムの結合の一バージョンだったことにも通じるだろう。
とはいえ、トランプの国家主義を、歴史上の旧来のものと同一視できない。MAGA(アメリカを再び偉大に!)の偉大なアメリカとは、彼にとって巨大ビジネスが栄華を誇るアメリカでしかない。ガザの膨大な数の死傷者と廃墟を見て彼が何も思わないのと同様、彼は気候変動がアメリカにもたびたび甚大な災害をもたらし、多くの人々、特に経済的弱者を悲劇が襲うことなど気にかけることもないようだ。
そもそも、トランプを最高権力者にまで押し上げた人々、そして世界中で彼を人気者に祭り上げたのは、その多くがグローバリゼーションの被害をまともに受けた人々だった。彼らは自分に起こった災難を、ビッグピクチャーから見ることがないまま、タリフマンを名乗るトランプの国家主義的レトリックにハマってしまったのだろう。
(ここで余談:ビッグ・ピクチャーの対極にあるのがナルシシズムだ。その言葉はギリシア神話に登場するナルシスに由来する。水に映った自分の姿に恋をしたナルシス。トランプもマスクも現代のナルシスだ。せめて水仙の花にでも生まれ変わってくれるといいのに。)
ともあれ、ぼくたちはいくらトランプが嫌いでも、マスコミと一緒になって、関税まで悪者にしてしまってはいけない。本当の問題は、関税ではなく、自由貿易であり、グローバリゼーションなのだ。グローバリゼーションは至るところでその破綻の兆候を見せている。人類を崖っぷちまで連れてきてしまった気候危機もその一つだ。
グローバルからローカルへ。それがビッグピクチャー・アクティビストの合言葉だ。
さて、トランプをめぐる腹立たしい喧騒の中で、この数日のうちに、ローカリゼーションのリーダーたちから届いたメッセージを紹介しよう。あなたのうちの怒りや苛立ちや不安を鎮め、冷静さと愛を取り戻すための一服の清涼剤となればいいのだが。一つ目はヘレナ率いるローカル・フューチャーズから、二つ目はローカリゼーションの最も優れたメルマガ「メインストリート・ジャーナル」を主宰するマイケル・シューマンから、だ。ぼくのいい加減な訳が気に食わない人のために、英語原文もつけておく。
(1)トランプは地域主義者? とんでもない!
おや? ドナルド・トランプの新しいお気に入りの言葉は「関税」ですね。それって、彼はローカル主義者っていうこと?
いやいや、とんでもない。もちろん、そうではありません。
トランプの環境問題に対する無知、そして米国を民主主義の国としてではなく巨大企業として運営するという彼の決意を見れば、明らかでしょう。
彼は何よりもまず国家主義者{ナショナリスト}です。近代の始まり以来、国家建設プロジェクトは常に、一方でトップダウン型の権力を拡大し、他方で地域文化を解体し、地域経済を破壊するというプロセスを伴っていたのです。
植民地主義の権力者たちはいくつもの大陸を分割しました。それぞれの場所の地理や文化を理解することなく、もっぱら中央集権的に管理するための都合に合わせて分割したのです。地域のアイデンティティが侵食されると、新聞やラジオといったマスメディアが人々に、国境に仕切られた“国家”の一員という新しいアイデンティティを売り込みました。それ以来、この国家という概念は、権力者たちが、他者への疑念と恐怖を生み出すために使用され、その国家を防衛するという名目で軍備拡大を正当化してきたのです。
トランプの経済政策は、この古い拡張主義{エクスパンショニズム}の物語の継続です。彼の好きな“関税”は、主に他の国々を脅迫して従わせるためのものとして設計されています。
私たちローカル・フューチャーズ(Local Futures)は、これとはまったく異なる経済変革のビジョンを掲げています。国家が支配的な企業帝国に対抗できるだけの強さを保つ必要があると私たちは考えています。しかし、その国家がすべきことは、課税や規制を利用してグローバル大企業の力を抑制し、その一方で、経済力を地方や地域へと委譲し、分散することだ、と考えています。それによって、よりエコロジカルで、より小規模な経済構造が再構築されるでしょう。実はその方が、経済的により効率的で生産的であるばかりか、人々にとってより生きがいのある人生への近道なのです。
So, Donald Trump’s new favorite word is 'tariffs'. Which makes him a localist, right?
Well, not really.
Trump’s track record of ecological illiteracy, as well as his commitment to running the USA as a giant business rather than a democracy, speaks volumes.
He is also first and foremost a nationalist. And since the beginning of the modern era, the nation-building project has gone hand-in-hand with the expansion of top-down power and the destruction of cultural identities and local economies.
Colonialists carved up whole continents – not according to any understanding of place, but to suit the needs of centralized control. As local identities were eroded, mass media (newspaper and radio) sold people a new identity – one based on the abstract idea of national borders. Ever since, this idea has been used by those in power to create suspicion and fear of others, justifying military expansion in the name of defense.
Trump’s economic agenda continues this same old expansionist story, and his tariffs are primarily designed to bully other countries into complying.
We at Local Futures uphold a very different vision of economic change. We believe nation states need to remain strong in the face of the dominant corporate empire, but that they should use taxes and regulations to curtail the power of global corporations while simultaneously devolving economic power to local and regional levels. This would reweave the fabric of more ecological, smaller-scale economies that are actually more productive and provide meaningful livelihoods.
(2)「ローカル・ビジネスが民主主義を守る」 by マイケル・シューマン
「公共機関{インスティチューション}を守れ。インスティチューションは我々が品位を保つのを助けてくれる。インスティチューションは我々の助けを必要としている…。インスティチューションに代わって行動してそれを我がものにしない限り、『我々のインスティチューション』について語る資格はない。インスティチューションは自らを守ることはできない。最初から守っておかない限り、次々と崩壊する。だから、裁判所、新聞、法律、労働組合など、自分が大切に思うインスティチューションを選び、その側に立とう。」
― ティモシー・スナイダー、『On Tyranny』
現在、私たちがこれまで慣れ親しんできた民主主義が危うく揺れ動いている。“司令官”が前例のないほどの権力を掌握し、裁判所があわてて彼をなんとか制御しようと躍起になっている。何百万人ものアメリカ人、そして読者の皆さんのほとんどと同じように、私も恐れている。
しかし、米国の民主主義の軌跡は決して平坦ではなかった。我々は、“明白な天命{マニフェスト・デスティニー}”の名の下に、北米に住んでいた500万人のネイティブ・アメリカンをほぼ絶滅させた。1860年には400万人のアフリカ系アメリカ人が奴隷状態にあり、その前の250年間ですでに数百万人が奴隷状態になり、その後75年間、ジム クロウ法によるアパルトヘイト(人種隔離政策)が続いた。女性は夫の所有物と見なされ、1920年まで投票権さえなかった。
私たちは、こうした恐ろしい倫理的過ちをなんとか乗り越えて、より調和のある社会をつくってきたし、これからもまた、きっとそうするに違いない。降伏は選択肢にはないのだ。
このような時代には、1つの公共機関{インスティチューション}を見つけてそれを自分たちのものとして守ろうというイェール大学の歴史学者、ティモシー・スナイダーの意見に、私が賛成だ。そして、私にとってのそのインスティチューションとは、地元企業{ローカル・ビジネス}。地域の企業家が主導し、地域の投資で強化され、地域の購入によって強化されるローカル企業。そこからこそ、民主主義の保護と再生が始まるだろう。
非差別的で持続可能な、公正でフェアな、国のあり方を支持する100万もの独立系企業と同盟を結ぼうではないか。
今後数か月、私はこの目標を達成する方法についてさらに話をさせてもらうつもりだ。今はとりあえず、私たちが意図していることを宣言しよう。制御不能な独裁者が気候危機対策の終焉を宣言し続けるなら、私たちはローカル・エネルギー、ローカル化による効率性向上、ローカル循環型経済など、地域の取り組みを倍増させよう。彼がD E I(多様性・公平性・包摂性)の終了を主張するなら、私たちはまさにそれらの価値観が自分たちのビジネス・コミュニティで栄えるようにしよう。彼がウォール街の仲間たちの横暴に歯止めをかけることを拒否するなら、彼らの顧客と投資家を地域ビジネスのよりよいアイデアによって、ウォール街から引き離し、地域の大通り{メインストリート}へと勧誘しよう。メインストリートは今も“私たちのストリート”であり、“私たちのインスティチューション”であり続けている。
“Defend institutions. It is institutions that help us to preserve decency. They need our help…. Do not speak of ‘our institutions’ unless you make them yours by acting on their behalf. Institutions do not protect themselves. They fall one after the other unless each is defended from the beginning. So choose an institution you care about—a court, a newspaper, a law, a labor union—and take its side.”
― Timothy Snyder, On Tyranny
Democracy as we know it now wobbles on a knife edge, with the executive making unprecedented power grabs and the courts scrambling to enforce constraints on him. Like millions of Americans and most of you, dear readers, I am scared. But the arc of U.S. democracy has never been smooth. We nearly exterminated the 5 million Native Americans that inhabited North America in the name of Manifest Destiny. We had four million African Americans in bondage in 1860—and millions more in the 250 preceding years, followed by 75 years of Jim Crow apartheid. Women were deemed the property of their husbands and lacked the right to vote until 1920. We struggled through these horrendous ethical lapses to establish a more perfect union, and we will do so again. Surrender is not an option.
I agree with Yale historian Timothy Snyder that in times like these, we must find one institution and embrace it. For me, that institution is local business. Free enterprise led by local entrepreneurs, fortified with local investment, and strengthened through local purchasing—that’s where the protection and renewal of democracy can begin.
Let’s create an alliance with a million independent businesses who pledge their allegiance to a country that is inclusive, sustainable, just, and fair.
In the coming months, I will have more to say about how we accomplish this goal.
For now, let’s just declare our intentions: If an out-of-control autocrat continues to declare the end of climate protection, we will double down on our local efforts through local energy, local efficiency, and local circular economies. If he insists on ending diversity, equity, and inclusion, we will ensure these measures flourish in our business community. If he refuses to rein in his supporters on Wall Street, we will peel their customers and investors away with better business ideas locally. Main Streets will remain our streets.
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