昨日、オーストラリアで2019年に公開されて大人気を博した映画、『2040 地球再生のビジョン』が公開された。ぼくは、「リジェネラティブ」や「ローカリゼーション」という二つの重要な考え方を広めるのに貢献してきたこの映画が日本でも公開されるのを待ち望んでいた。その初日の、上映後トークによんでいただいたので、行ってきた。
この映画には、ぼくの長年の友人であり、ローカリゼーションのリーダー、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジや、「ドローダウン」や「リジェネレーション」などで有名なポール・ホーケン、ドーナツ型経済のケイト・ラワースなど錚々たるゲストスピーカーが登場する。この映画の監督・主演デイモン・ガモーは、人気俳優としてのキャリアを犠牲にしても、環境問題をテーマとする映画作りにかけた人だ。私生活でもヘレナやそのN G O「ローカル・フューチャーズ」の仲間たちとも大の仲良しだという。
仲間たちと一緒にリジェネラティブ農業や漁業のドキュメンタリー映画『君の根は。』を日本に紹介した時もそうだったが、ぼくはこの映画に全面的に賛成しているわけではない。しかし、基本的に、幼い子どもたちの視点を真ん中に据えたガモーの姿勢には大いに共感を覚える。また、リジェネラティブとローカルという、ぼくたちが進むべき二つの筋道についても、この映画はしっかり伝えていると思う。
5年遅れの日本公開だ。5年前、誰が、ここまで世界システムの崩壊が進み、善意や倫理が嘲笑の対象になるようなシニシズムや悲観主義が進行すると予想したろう。それでもこの新年、週末の渋谷の雑踏の片隅で、この映画が小さな希望の火を灯している。近くの方はぜひ、見に行ってほしい。また、配給のユナイテッド・ピープルはいつものように、各地での上映運動を見込んでいるので、それを期待していてほしい。
以下、(1)オフィシャルサイトの映画概要(2)推薦コメントby辻信一 (3)シナリオより、ぼくが特に注目した重要な言葉を書き起こしてみた。
(1)映画概要
「ベルベット、君に暮らしてほしい未来を描くよ」
4歳の娘を持つオーストラリアの映画監督デイモン・ガモーは、娘たちの世代には希望を持てる未来に生きてほしいと願い、もし悪化する地球環境を再生できるようなアイデアや解決策が今後急速に世界中に広がれば、娘が大人になる2040年にはどんな未来が訪れるだろう?と、解決策の実行者や専門家に会うため世界11ヶ国を巡る旅に出る。持続可能な社会を目指す理想的な経済モデル「ドーナツ経済学」や、バングラデシュでは自家用の太陽光発電システムをつなぎ電気を取り引きし、シェアするマイクログリットの実践と恩恵を目にし、オーストラリアではリジェネラティブ(再生型)農業や海藻で海洋環境を改善させる海洋パーマカルチャーを学ぶ。言語学者でローカリゼーション運動のパイオニアであるヘレナ・ノーバーグ=ホッジの「現実に目を向ければ、いたるところに驚異的な希望の光が見えるはず」という言葉に勇気づけられ、道中には約100人の子どもたちに理想の未来についてインタビュー。CGやポップな映像を交え、どのように地球を再生させることができるか、ワクワクするような未来予想図を描く。
監督:デイモン・ガモー(『あまくない砂糖の話』2014)配給:ユナイテッドピープル 後援:オーストラリア大使館2019年/オーストラリア/92分/ドキュメンタリー
2025年1月11日(土)より シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー!
>>映画「2040 地球再生のビジョン」公式サイトはこちら
(2)推薦コメントby辻信一
こうした愛と希望に満ちた、変革と再生の物語をぼくは待ち望んでいた。
子どもたちに、希望を、明るい未来を、語れなくなっていた大人たちよ。ぜひ、あなたにとって大切な子どもを連れて、この映画を見にいってほしい。そして帰りにおいしいものをご馳走してあげてほしい。そしてその子に、この映画で世界中のたくさんの子どもたちがやっていたように、「自分はどんな世界に住みたいか」を語らせてあげてほしい。そしてそれを十分聞いたら、今度はあなた自身が、「その子にどんな世界に住んでほしいか」を語る番だ。
映画の冒頭で、監督で主演のデイモン・ガモーは、人類の生存を危うくするような深刻な問題を前に絶望感やシニシズムが広がる今だからこそ、幼い子どもを育てるひとりの親として、それとは違う物語を語ってやりたいのだと言う。しかし、それは絵空事ではない。彼が挑んだのは、今世界に実在する最良の策だけを採用したら、2040年の世界がどうなるのか、を描くこと。
ポール・ホーケン、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、ケイト・ラワース・・・といったぼくのヒーローたちが次々に登場して、実現可能な明日を語ってくれる。
ホーケンによれば、すべての分野をリジェネラティブ(大地再生型)にすることが鍵だ。特に農業は、二酸化炭素の排出を止め、炭素を隔離する「両方が可能な分野」であり、また、海藻を軸とする海洋農業で海を再生させ、100億人分のタンパク質が提供できる、と。
ヘレナは経済の仕組みをローカル化することが鍵だという。ローカルな大地再生農業で使用する土地、水、電力を驚くほど減らせ、収穫量を大幅に増やせる、と。「マスコミの報道ではなく、現実に目を向ければいたるところに驚異的な希望の光が見えるはずよ」
映画の最後に、ぼくたちはデイモンとともに、こう確信するだろう。
「実現のために必要なものは、すべて、既にある」
さあ、この再生のビジョンに向けて、動き始めよう。
(3)登場人物たちの注目すべき言葉
<ポール・ホーケン 環境活動家/作家/起業家 プロジェクト・ドローダウン>
僕らが考える逆転(ドローダウン)のための解決策は
すべてを再生型(リジェネラティブ)にした発展だ
地球も人も良くなる
社会も、生物も、鳥も…
農業を変えるには2つの方法がある
1つは二酸化炭素の排出を止めること
そして炭素を隔離することだ
農業はその両方が可能な分野なんだ
上昇を止め、下に取り込む
農業をひっくり返すんだ
工業型農業がなくても人は飢えない
世界の食料の70〜80%は小規模経営で作られている
工業型農業から来る食料は20%しかないし
その大部分が動物用のコーンと大豆…人に必要のない糖だよ
工業型農業が人を救うとか不可欠だなどという話は事実とは正反対だ
肥満、糖尿病などの病気を生んでるだけだからね
(海洋リジェネラティブ農業について)100億人分のタンパク質が海洋パーマカルチャーだけで提供できる
<コール・セイス 農家/リジェネラティブ農業指導者>
土壌は未知の宇宙だ
60億を超える微生物を宿している
スプーン1杯の中にだ、生きた土壌ならね
数千年さかのぼれば分かるが、牧草地は草食動物の大群に占領されていた
群れは肉食動物に追われ動き続け・・・同じ場所にとどまることはなかった
この50〜60年間、人は牛や羊を自然のエサから引き離してしまった
そして穀物を食べさせてる
穀物食に向かない体なのに、だ
だから家畜は病んでいる
飼育場の動物は不健康だし、その肉を食べるのも良くない
飼育場など始めるべきではなかった
地表下30センチまでに炭素が1%増えると
1ヘクタールの土壌の保水力が16万6000リットルも増える
1度の降雨で、だ
干ばつや乾期の被害は減らせる
世界中で牧草地には自然の灌漑(かんがい)システムがあった
草が草を生み出すんだ
植物多様性と草食動物の放し飼いで我々の問題は解決できる
<エリック・テーンスマイヤー
「カーボン・ファーミング・ソリューション」著者 プロジェクト・ドローダウン上級研究員>
1万年もの歴史がある農業ですが
現代の土壌劣化は気候変動の最大要因です
農家に何と言いたいかよく聞かれます
答えは”あなた方が必要です”
農業なしに気候変動は収まらない
農業が問題の1つでなく、解決策になるような——
方法を採らないといけません
<デイモン・ガモー>
炭素をどう土に戻すか説明しよう
植物は二酸化炭素と太陽光を使い糖を作る
成長に糖を部分的に使い、残りは根を通して土へ送る
微生物が植物から送られる糖を食べることで
二酸化炭素が分解された炭素が土壌に戻るのだ
リジェネラティブ農業により家畜は牧草地に戻る
全農地の3分の1を占める飼料作物の畑で何ができるかを考えてみてくれ
リジェネラティブ農業にその土地を使えば
膨大な量の炭素を土に取り込める
大事な水を保つ土地で栄養価の高い食料ができる
家畜には大豆や穀物でなく
草や、今まで廃棄していた作物や食べ物を与えられる
動物も、その肉を食べる人も健康になる
僕らの環境もだ
急こう配の土地では、炭素を大量に吸収する別種の食料も作れる
”アグロフォレストリー”は、森林に作物を植える農法で
パパイヤ、バナナ、コーヒー、アボカドなどが育つ
小さな土地でもできるところがミソだ
<ブライアン・フォン・ハーゼン博士 海洋リジェネラティブ農業指導者、クライメイト・ファンデーション執行役員>
温暖化で増えた熱の93%は海が吸収する
それで海水温度が上がりすぎ、海洋大循環と栄養がなくなった
結果、生物が死んでしまう
(海藻)のパーマカルチャーで海洋大循環を回復させたい
しびれた脚の血流を改善するようにね
海水が循環すれば冷たい水が上がってきて栄養塩レベルも上がるから
海藻が育つ環境が戻る
オーストラリアとアメリカの間には、1億平方キロの”海の砂漠”がある
パーマカルチャーに向いてる場所だ
亜熱帯の海に海洋生物を回復させられたら漁業も回復させられる
食料、家畜のエサ、肥料、繊維、バイオ燃料にもなる
海藻は万能なんだ
海藻が海水の二酸化炭素を取り込んで海のアルカリ性を回復させてる
貝も他の生物も元気を取り戻した
成長が早い褐藻類は1日50センチも伸びる
おまけに50メートルにもなる
1平方キロで年に何千トンもの炭素を取り込む
食べ物だし魚の棲みかでもある
それに生態系と炭素バランスも回復させる
僕らの文明を立て直せるか否かの事態だ
気候変動で土壌も海も消耗させてしまえば文明は残らない
土と海という食料の基礎を失ったら文明も失うことになる
<ケイト・ラワース 経済学者「ドーナツ経済学」著者 オックスフォード大学 環境変動研究所>
人間の暮らしが地球の安定と繁栄に懸かってると気づけば
環境を中心とした経済になります
今の経済は”より大きく早く”が大事で、20年ごとに規模が倍増しています
資源を取り、好きに作り替え、少し使って捨てる
”取る 作る 使う 捨てる” が地球を傷つけ、
気候変動と大気汚染を生んだのです
問題の原因は私たちです
政府の対応など待てません
政府、地域社会、企業に新たなビジョンを持たせ惨状を防ぐよう行動させるのです
<ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ 「ローカル・フューチャーズ」代表、『懐かしい未来』著者、映画「幸せの経済学」監督>
高度に多様化したローカルフードシステムなら効率的な農業ができます
使用する土地、水、電力を本当に驚くほど減らせて
収穫量を大幅に増やせるのです
マスコミの報道ではなく、現実に目を向ければ
いたるところに驚異的な希望の光が見えるはずよ
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